房総半島のヒト vol.2 廣田賢司 @ 金谷

2016.09.08 (木) /

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photo by: anna mori

決して多くを語る人ではない。周囲に笑いを振りまき、脚光を浴びるような派手さがあるわけでもない。

だが、周囲に迎合しすぎることなく「ありのままの自分」というスタンスを貫く、彼の“ 芯 ”に触れたとき、
あなたも居心地の良さを感じて、思わず話しかけていることだろう。

廣田賢司。通称、ケンケン。

2016年の夏、金谷に移住した。

移住して約1ヶ月だが、すでに何年もこの地に住んでいるかのような佇まいで、自然とまちの風景に溶け込んでいる。
金谷では、シェアハウスの運営に携わるかたわら、友人の古民家改修から地元農家の畑仕事の手伝いまで、
縦横無尽にマチを駆けまわる。

それだけではない。

彼の代名詞でもある「50円出張撮影サービス」は、金谷を中心に俄に注目を集めているプロジェクトだ。

50円出張撮影!?

読んで字のごとく、写真の撮影費はたったの50円。依頼があれば、日本全国・世界のどこへでも出向き、
依頼主の希望に添った撮影をおこなう。今では、国内の至るところから仕事のオファーが届き、
各地を練り歩いては、ときどきフラッと金谷に戻ってくる。

正直、それで食べていけるのか・・・。

収入の心配をしたが、 「お金よりも、活動を通して生まれる人とのつながりを大切にしているかな」 とあっさり。
こちらの愚問ぶりを露呈する結果となった。

金谷への移住も、そんな50円出張サービスがきっかけだった。友人からの依頼でたまたま訪れた金谷。
自然味あふれるマチの風景はもちろん、 「ここに住む人の魅力が最大の決め手になった」 と語る。


支配された人生


photo by: Kenji Hirota

そんなケンケンの、これまでの人生ストーリーをもう少し知りたいと思い、少し時間を遡った質問をしたところ、
「あがり性に支配された人生だった」 と一言。

幼い頃からおとなしい性格で、人前に出ることや初対面の人と話すことが大の苦手だった。
学生時代も、周囲に上手く馴染むことができず、学校へ行くことにすら、恐怖心を抱いていたほど。
親や先生、友人に相談することもできず、ひとり苦悩の日々を過ごした青春時代。

その後、デザイン系の専門学校を経て、IT 関連の企業に就職。だが、症状は悪化の一途をたどる。
職場で打合せがあるたびに、胃をつかまれるような緊張感を味わった。
発言を求められたり、プレゼンを強要されたりすることがあるのではないかと、起こりもしない事態を想像しては、
不安に駆られる毎日。 「予期不安症」 という症状にあてはまった。

それでも、自分の苦手とする部分に向きあい、克服しようとするところに彼の秘めたる強さがある。
働きながらも、コミュニケーションを専門とする講座やスピーチ教室に通った。
数ヶ月に及ぶ猛特訓の成果もあり、初対面の人と話すことに以前よりも抵抗を抱かなくなっていた。

今でも、人前に出ることへの抵抗感は少なからずある。根本が変わったわけではない。
それでも、そんな自分すらも内包して生きていく。

「相手の立場になって考えられるところが、自分の強みでもある」

ストイックなまでに、自分と向きあった苦悩の日々に裏打ちされた、強さという優しさが、
彼が発する居心地の良さの源泉なのだろう。


暮らしを彩るひとつの物差し


photo by: Kenji Hirota

今年のはじめに、2年間に及ぶ世界放浪の旅から帰国したケンケン。
以前から彼のことを知る友人は、数年来の再会に 「すっきりした感がある」 と当時の印象を語る。

「内向的な自分が海外にいくことなんて考えもしなかった」 と話す、当時の彼の背中を押したのは、
ひすいこうたろうさん著の 「あした死ぬかもよ?」 という一冊の本。
自分も周りもいつどうなるかなんてわからない。
だったら “シンプルに今を楽しく生きる” そう思って旅にでた。

そんな旅のハイライトは、スペインの巡礼。
20kg以上もある荷物を背負い、780kmを歩き抜いたスペインの大地。
苦楽の繰り返しでもある巡礼は、精一杯生き抜いた30日間でもあった。
かけがえのない仲間も世界中にできた。

だが、現在のライフスタイルにつながる原体験はそこではない。
大自然の絶景パノラマでもなければ、文化的遺産といった人間の叡智でもない。

“路肩に座り、目の前の行き交う人々をただ茫然と眺めているマチの人” なんだとか。

“暇を持て余した人” というレッテルを張るわけではない。
時間という制約に縛られることなく、欲望のままに今を生きることの象徴として、
暮らしを彩るための一つの物差しとして、彼らの姿はケンケンの脳裏に焼きついている。


追わず、追われずの暮らし


photo by: Kenji Hirota

自然の流れに身を任せ、まわりにいる人とのつながりを大切に紡いでいく。
その中で、自分のワクワクセンサーを最大限に張り巡らせ、
楽しいと思えることに大好きな仲間たちと一緒に取り組んでいく。

理想を掲げ、それに向かって一心不乱に突き進むこともなければ、
仕事や日々の作業に追われることもしない。

無私の思いやりと周囲に対する感謝の念を忘れることなく、
追わず、追われずの暮らしを求めて。

「ふたたび旅にでる?」
「ん〜・・・、今は考えていないかな」

それよりも、

「誰となにをするかが今のテーマ。金谷の人たちとであれば、なにをやっていても楽しいと思えるんだよね。
田んぼの雑草抜きでも、小屋づくりでも」

最近、相棒のカメラを修理のために手放したとき、想うコトがあった。

「カメラのない自分は考えられない。でも、カメラがなくても自分には価値があると思える自分もいる。
そことの攻めぎ合い。今はどんな自分でもいいと思える自分がいる。
いろんなスタイルを持った自分と相撲をとりながら、一瞬一瞬を大切にしていきたいね」

ケンケンの、自然体で優しさに満ち溢れた笑顔に呼応するかのように、
金谷の美しい夕日が、あたり一体を温かく包み込んでいた。



※ 「房総半島のヒト」では、房総半島に移住し、移住した土地で活躍するヒトに焦点をあてます。
金谷のまちやゲストハウス 「しへえどん」 とのつながりにも着目しつつ、鼓動する房総半島を紹介する連載企画。


Writer: kenji takeuchi

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